「桑田佳祐のやさしい夜遊び」(TOKYO FM系全国38局ネット)再録企画!
ニューアルバム『葡萄』にまつわるQ&A
※皆様に分かり易くするために、話し言葉等、一部実際の言葉を編集しております。
Q「葡萄」をニューアルバムのタイトルに選びましたが、これはいったいどういう事なのですか?
Aあんまり深い意味はないです。(笑)
親しくさせていただいている、大ベテラン女優の大空真弓さんから、去年の春くらいに葡萄の鉢植えを送っていただいたんです。それを見てすごく嬉しくて、頂いた葡萄をなんとか成長させたいと思いまして、小さなうちに葡萄棚を作りました。「葡萄」というタイトル、大空真弓さんのお蔭でもあるんです。「葡萄」という漢字の字面も良いですし、葉っぱや房や蔓とかに艶っぽさやエロティシズムを感じたことなども理由のひとつですね。
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Q今回のアルバムを一言で表すなら、どんなアルバムですか?
A一言で言えば「これが限界」です。(笑)
「サザンのメンバーと、スタッフとで、一生懸命力を合わせて作ったアルバム」でございます。
Q「大衆音楽の粋」を極められたというニューアルバム。今の桑田さんの音楽性は「昭和あるいは大衆歌謡」に向いているように伺えます。そうでありましたら、その理由などをお聞かせ頂きたいです。
A歌謡曲は、もちろん好きで自分のルーツでもあります。もともとビートルズとかエリック・クラプトンだとかそういうアーティストに憧れていまして、欧米人みたいになりたいとか、そういったコンプレックスの裏返しみたいなものでずっとやってきましたが、長年やっていますと、自分たちらしいことを表現したり、そういう表現を模索したりするというのが一番良いんじゃないか?というような気持ちになってきましたね。
Q『葡萄」のジャケットを見て、竹久夢二の絵のような大正浪漫を思い浮かべました。大人な雰囲気が、とてもお洒落です。今回のような路線というか、コンセプトが決まっていった経緯、きっかけとなった出来事など教えて頂けますか?
A箱根のポーラ美術館で、日本画家の岡田三郎助さんという方の「あやめの衣」という1927年の作品を見て非常に雷に打たれたように衝撃を受けまして、『葡萄』のジャケットはその絵のオマージュという部分もあります。スタッフが葡萄柄の着物をオリジナルで作ってくれまして、それでモデルさんを、オーディションして。写真を何ポーズか撮り、それをまたこう油絵に起こして。そういう風にできあがったのが『葡萄』のジャケットです。
あと、ソロで「声に出して歌いたい日本文学」というのをやった時に、日本語の美しさとか、ニュアンスの持たせ方とか、先達の表現力の豊かさに驚きまして。自分もたまに小説を読むんですが、作品を読んだ時に人間にまつわる誰もが持つ謎とか、闇、陰りみたいなものが書かれていて、私も興味があるわけです。この『葡萄」は小説であったり、あとサザンという劇団の中の「葡萄」という演目の舞台であるとか、そこの座付き作家としての私みたいな、そういうような気持ちで今回、レコーディングを励んでみました。
Q前作の『キラーストリート』では、既にシングルで発売されていた曲については、ハンドクラップやドラムの演奏が追加されたアルバム・バージョンになっていましたが、今回のアルバムでも、そういったアレンジの加わった楽曲はあるのでしょうか?
Aあんまり無いです。ほとんど無いかな?ただ、マスタリングというCDを作る最後の作業の時、また新たにEQしたり、レベルをあげたり、お化粧を施すんですが、その作業で「蛍」以外は、大体ボーカル・コーラスを中心に、「ピースとハイライト」も上げました。ズルいでしょ?(笑)「東京VICTORY」もドラムの音がさらに強く派手になったりしています。歌も上げちゃいました。あえて楽器をアルバム用に換えたりとかは今回はしていませんね。
Q今年に入ってすぐにアルバムの発売日と同時にツアーが発表されましたが、収録曲の中には、やはりライブを意識したものはあるのでしょうか?
Aありますよ、そりゃもう!当たり前じゃないですか!一時期、ライブでCDを再現できなくて困ったことが何度もあります、作ったはいいけど(笑)。レコーディングが楽しすぎて、なんか細かいところにこだわりすぎちゃうんですよ。やってる時は夢中なんです。それで、ライブで再現できない曲っていうのは今まであるんです、何曲も。そういうのってやっぱりつまらないしね、だからなるべくライブは意識しています。
Q先週、とある海辺の街より届けて頂いた「はっぴいえんど」が心に沁みました。この曲の歌詞に込めた思いを聞かせて頂けると嬉しいです。
Aひらがなで「はっぴいえんど」と書けば、やっぱりあの細野晴臣さん、松本隆さん、大滝詠一さん、鈴木茂さんのビッグ4のあのグループだって普通の方は思うわけですけど、タイトルは本当にその偉大なバンドの「はっぴいえんど」からそのまま拝借しました。
今回、16曲収録なんですけど、全部曲が、メロディが先にできまして。で歌詞を考えて歌を入れるというそういう順番だったんですけどね。本当にどんな主人公なり、キャラクターなりがおりてくるかわからないんだけど。歌詞に込めた思いはね、やっぱり人間関係。ひとりじゃ生きてこれない。みんなのおかげ、自分じゃ何にもできませんから。映画もろくに一人で見に行けない。(笑)みんなのおかげで生きてます。
Q「キラーストリート」はちょっと力みすぎた、今度のアルバムは緩めてやろうというように以前おっしゃっていたと思うのですが、「葡萄」は力まずにできましたか?むしろ、一年の間に、中だるみした時期とかありましたか?
Aそれなりに、力んでます。えぇ。リラックスなんかできないのよ〜、本当になんか知らないけどね、好きこそ故に力むのよ。スタジオに居るの好きだからね、中だるみはないんだけれども、最後の方は何やってるのか自分でもわからなかった。もう、どこに向かってるんだか。で、おれも、「チョコチョコっと、こことこことここ、(エンジニアの)中山くんに、直してくれ、中山くん頑張って」とかね、「(ディレクターの)大場、頼む!」「大場ごめんね、本当に、大場いつもありがとう!」なんて言ってね、直してもらったりして。今すでに後悔してるところもあるんですよね。でもまぁ、これ自分のキャパシティというかね、才能の範囲だからしょうがねぇよなぁ!
Q新曲聴かせていただきました。今まで出されたアルバムとは全く毛色の違う作品でゾクゾクしました。
私的に思う事ですが、英詞がほぼ見受けられないのも作品に今までない新鮮さがあるのかなぁなんて思ってしまいます。先週の放送で限界と冗談を言っておられましたが、限界どころか新たな境地を見せていただけそうで、これからのサザンにさらに期待が大きくなりました。
今回のアルバムをキッカケに英詞に対する考え方が変わったりしましたか?
A英語を日常会話で使っていたらね、英語のネイティブのニュアンスが理解できるとか、英語による生活感が私にあれば、当たり前ですけど、私の作る英語詞にももっと説得力があるんだと思うんです。今回はその、俄か知っている英語フレーズに逃げるのをやめました。日本人の、音楽人の端くれとしまして、作品を作る人間として、『葡萄」というサザンオールスターズの物語を読み物としてもね、成立させたかったといいますか。要は皆さんと、できるだけ長く、深くコミュニケーションを取りたいという気持ちなんですけれども。
Q桑田さんは以前アルバムに必ず1曲原坊のボーカル曲を入れるようにしている、とおっしゃっていましたが、毎回原さんの歌う曲のイメージはアルバムのもつ全体的な雰囲気やテーマなどを考慮して考え変えるのでしょうか?
A特にそういうこと考えていないんですけどね。原坊は最初、サザンのアルバム「タイニイ・バブルス」から「私はピアノ」という曲でソロをとって以来、サザンのアルバムには必ず彼女のリードボーカルを入れてますけど、ここは非常に大事な部分なんだと思っております。これは私自身もやっぱり、作家と言っちゃなんですけどもね、モチベーションの上がる部分でございまして、原さんにとってもキーボードプレーヤーからボーカリストにギアチェンジする、この部分は、本当にサザンの大きな特徴、武器だと思っています。
Q曲順はどうやって決めているのですか?
A今回16曲ですけど、とりあえず歌が全部入ってみないとわからないんですよね。一曲ずつ仮タイトルのついた16曲分の札を作ってスタジオに貼っておくんですよ。毎日こう、歌入れちゃ入れ替えたりしてね。仮歌で歌っているのを、ちゃんと詞をつけて、本歌を入れて、そうするとまたオケのバランスが変わったりするんですよね。歌詞が付いて、意味を持つと、本当にオケのバランスに影響が出て来てね。で、M1、最初何で始まろうかなって。最初はずっと「バラ色の人生」だったんですが、その後「東京VICTORY」から始めるのはどうかなとか。今年に入ってからやっと「アロエ」で行こうって決めたんですけど。テンポとか、音の厚みとか、歌詞の意味とか、キーとかをいろいろ考えて、現在の曲順になりました。
Q桑田さんが以前アルバム紹介する時に昔ながらの洋食屋のイメージとおっしゃっていましたが、それはどんなかんじなのかまだ全くよくつかめていません、ごめんなさい。具体的にちょっぴり教えてくれたらと。
A町の洋食屋さんというイメージがちょっとあってね。ハンバーグとかとんかつとか生姜焼きとかさ、コーヒー、紅茶があるじゃないですか。もとはその外国のメニューからそれを日本人の舌にあうように、店のご主人が、心を込めて改良していったと解釈しているんですけど。またそこに味噌汁とかお新香がつくのって嬉しいじゃないですか。パセリをちょっとこうそえたりしてね。で、そのなんとか定食、生姜焼き定食、ハンバーグ定食じゃないですけどね。いまさらって思われるかもですけど、サザンとしても欧米発祥のロック、ポップスをそっくりそのまま崇拝して、マネしている時期ってあったんですよ。アマチュアのころから。この年になってすごく身に染みて気づいたのが、ハンバーグステーキに、我々だったら醤油をたらすとか、みそ汁とか白米といったその和のテイストを、いかにこの音楽に盛り込んでいけるかって。そこの和洋のブレンドみたいなものがね、日本人ミュージシャンとしての、もはや歌謡曲といってもいいんですけど。その配合をうまくやりたいなぁと思いました。そういう意味で町の洋食屋の親父になりたかったのです。