プレミアムアルバム「海のOh, Yeah!!」2018年8月1日(水)発売!

海のOh, Yeah!!全曲解説

DISC-1 : “Daddy” side
  1. TSUNAMI

    当時、桑田が好んで観ていたサーフィンのビデオからインスパイアされた曲で、イントロもなく歌い出される構成は、サーファーのシンプルな人生観への共感、とも受け取れる。バラードだが、最後はロック的なカタルシスへ登り詰める。「いとしのエリー」が“言葉につまるようじゃ恋も終わり”という若き日の達観なら、ここでは“見つめ合うと”“お喋り出来ない”と、男の純情に立ち返っている。

  2. LOVE AFFAIR~秘密のデート~

    主題歌を担当したドラマ『Sweet Season』のテーマは“不倫”であり、それを“お題拝借”した結果、必然的に歌のなかの恋人達も“秘密”を抱えての横浜デート・スポット巡りとなった。行きつ戻りつするようなメロディが、後ろ髪を引かれる様を描写し、しかしサビには、見晴らしの良い“快楽”が待ち受けている。なお、10代の桑田自身も“ボウリング場でカッコつけて”たクチである。

  3. BLUE HEAVEN

    清々しいアコースティック・サウンドのようで、巧みにデジタルの方法論を用いたアレンジが、音の空間処理を巧みにしている。歌のテーマは失恋だが、やがてその記憶さえ空や海に溶けていくかのような、透明感を伴う切なさのようなものが襲ってくる。サビへ向かうあたりのメロディからは“祈り”の成分も感じられ、よりいっそう胸に滲みる。

  4. イエローマン~星の王子様~

    “イエローマン”とは日本人を指しているようにも思えるが、サブ・タイトルにサン=テグジュベリの名作の名が続き、受取る側は混乱する。しかしそれでいい。読経のような出だしからデジタル・ビートの奔流に出くわし、カオスのなかに様々な想いが浮かんでは消える。途中、言葉遊びのようでオペラチックでもあるキャッチーな仕掛けが効いている。こんな解説を読むより、改めて“体験”してみるべき音の万華鏡。

  5. SEA SIDE WOMAN BLUES

    曲タイトルは、かつてE・クラプトンも在籍した伝説のグループ、クリームの「アウトサイド・ウーマン・ブルース (Outside Woman Blues)」をもじったもの。曲のスタイルは60年代に流行ったムード・コーラス調である。実際は長閑な江ノ島界隈を、地方の歓楽街のごとく描いた詞の視点がユニークである。聴いてるうちに、夜の帳に“しっぽり”包まれる曲である。

  6. 彩~Aja~

    季節は春であり、原色というより中間色を感じさせる音色の選び方、さらに、木洩れ日のグラデーションも見落とさないかのような、細やかなメロディが印象的だ。それでいてオリエンタルというか、大陸歌謡的な風情もあり、切ない主人公の胸の内が、ぽつんと置き去りになり、無常と慕情を連れてくる。音楽的な関連は直接なさそうだが、タイトルはスティーリー・ダンの名作を意識したものである。

  7. HOTEL PACIFIC

    桑田の地元凱旋となった“茅ヶ崎ライブ”に向けて制作されたものだが、ジモティを納得させつつ県外者には憧れを、という、二律背反しそうなことをクリアしている。もはやダンサーを含めたライブ・パフォーマンスが目に浮かぶ一曲だが、楽曲自体が“音楽の肉体化”に長けたものであったため、単なる派手さだけではなく、芯のある躍動が曲だけからも伝わる。“茅ヶ崎あたり”という俯瞰から、“水着の奧”の接写まで、歌詞のカメラ・アングルは自在である。

  8. 唐人物語(ラシャメンのうた)

    原 由子のボーカル曲であり、「唐人お吉」こと斎藤きちの悲しい半生がテーマとなっている。了仙寺など、ゆかりの場所も描かれるが、大和言葉を意識した歌詞が、見事にメロディとマッチしている…、というか、言葉がメロディを連れてきた、くらいの完成度だ。原 由子の歌声には不思議な力がある。よくイノセントなどと言われるが、ここでは悠久の時間をワープし、聴く者を、お吉が生きた時代へと誘う。

  9. SAUDADE~真冬の蜃気楼~

    ジャンル的には“ボサノヴァ歌謡”といった趣であり、イントロで提示されたムード(曲タイトルに引っ掛けるなら、ブラジル人の感じる哀愁=SAUDADE)が、曲全体を覆っている。目の前の街とリオのカーニバルの情景とが、意識のなかで交差するかのような世界観。海の神様イエマンジャーが出てくるのは、桑田自身も海の育ちだからかもしれない。

  10. 涙の海で抱かれたい~SEA OF LOVE~

    デビュー25周年の年にリリースされたシングル曲。本人達の意識としては、ここで改めて、最強のサザンらしさを再構築してみせたのかもしれない。ブラスが堅固な入道雲なら、滑るギターは波頭。それが砕けぬうち、ひょいと桑田のボーカルがライドする。“コバルトブルー”“涙の海”などの言葉が、頭のアクセントで歌われ、でビルドアップしていくサビの解放感が素晴らしい。フィル・スペクター的なカスタネットの音が、リズムに奥行きを持たせ、良いアクセントとなっている。

  11. 私の世紀末カルテ

    これは「私」の“カルテ”なのだが、独白であり自己啓発のようでもある。男は家庭を持ち、日々、やり場のない感情を通勤カバンにつめ、満員電車に乗る。70年代前半に流行ったフォーク・ソングのように、アコースティック・ギターとハーモニカの伴奏であり、バンドというよりソロ作品の風情だが、こういうスタイルもサザンの楽曲であるというマニフェストが、その後、バンドの裾野を拡げる結果にもなるのだ。

  12. OH!! SUMMER QUEEN~夏の女王様~

    紛れもなく夏の歌。女性をこの季節の主役へと据えたコンセプトは、資生堂の夏のキャンペーン・ソングとして書かれたからかもしれないが、ジリジリとした光線が降りそそぐなか、大胆にはだけていく恋愛事情を、日本語・英語をたくみに組み合わせつつ活写する、ジャパーズR&Bに仕上がっている。思わず口ずさみたくなるキャッチィなサビが魅力的である。

  13. LONELY WOMAN

    今は傷心の日々かもしれないが、やがてそれを乗り越え、大人の女性へと成長しようとするヒトの肩を押してあげる歌である。桑田の作品には、時代に楔(くさび)を打ち込むような作風がある一方、先達からの遺産を次の世代へバトン・タッチするような作風もあり、これなどは後者だろう。60年代的な大らかさをもつ、ゆったりしたメロディであり、歌詞のなかにはビートルズの曲名も登場する。

  14. 01MESSENGER~電子狂の(うた)

    二進法(01)を用いたコンピューターのユビキタス社会が、やがて暴走し人間を支配するかもしれない現実に対して、警鐘を鳴らす作品である。冒頭こそテクノ的な幕開けをするが、すぐさまハードなギター・リフが、アレンジの根幹を担うが、これなどまさに、人間側から“闇の帝都”(歌詞より)への逆襲、ということなのだろう。シンギュラリティという言葉も頻繁にみかける昨今、改めて興味深く聴ける作品だ。

  15. 限りなき永遠(とわ)の愛

    大作『キラーストリート』のDisc-1のラストを飾った作品で、桑田のビートルズ愛、特にジョン・レノンに対する想いがゴロリと出ている楽曲と受け取れる。作曲するではなく、気付けばこんな音の上げ下げがメロディとなり、上手く歌う、ではなく、ふとなにかが降りてきて、気付けば“こういう歌になっていた”という風情のボーカルが胸をうつ。

  16. 素敵な夢を叶えましょう

    歌詞に出てくる「僕達」を、どう解釈するかにより、響き方が違ってくる歌だ。同じ夢を追いかけていた同士が、今は別々の夢を持ち、それでも充実した人生を目指そうと、そんなエールを(自分に対しても)送る歌に思えるし、ここで立ち返って、再びあの頃の夢を、という歌にも思える。シンプルなようで、実に緻密なアレンジが施されていて、“風のSaxophone”の歌ったあと、まさにそんな音色が聞こえてきたりもする。

DISC-2 : “Mommy” side
  1. 東京VICTORY

    移り行く世の中、変わりゆく街並み…、過去への愛着と未来への不安が渦巻くなか、それでも前を向いていこうよと、高らかに歌い上げるアンセム・チューンである。冒頭の桑田のロングトーンは先導役かもしれず、やがてみんなが唱和し、輪が大きく広がっていく光景が見えてくる。テーマ自体は異なるが、後半に従い徐々に気高く高揚していく感覚は、「希望の轍」に近いかもしれない。

  2. ロックンロール・スーパーマン~Rock’n Roll Superman~

    ロックンロール(この場合、50年代のそれというより、広くロック音楽のこと)への愛情が詰まった作品で、それでいてマニアックにならず、誰にも分かりやすく音楽の“魔法”を届けてくれる。モータウン的なカウンターメロディのイントロから本編が始まるが、それは実に流麗な、ストリングスも加わったロック・オーケストラ的な風情のサウンドであり、どんな性格の、どんな境遇の人達にも手を差し伸べてくれる。

  3. 愛と欲望の日々

    大奥を舞台とした時代劇の主題歌として書かれ、歌詞の冒頭には“東京(OEDO)”という言葉も出てくるが、そのまま江戸に時代考証した世界観というわけではない。時空を自在にワープし、気付けば六本木あたりのソウル・バーへ迷い込んじゃった雰囲気もある。絢爛豪華な歌絵巻でありつつ、黒人音楽へのリスペクトも併せ持ち、サザンオールスターズにしか不可能なミクスチャーを実現させている。

  4. DIRTY OLD MAN~さらば夏よ~

    過不足ないバンド・サウンドに乗せて、これまでの道のりを振り返る主人公が、“若さ”に代わるものとして、“素直”で“しなやかな日々”(歌詞より)を見つけるまでがスケッチされる。これまでのサザンにはなかった夏の終わりの歌かもしれない。ここでは季節の“夏”と人生の“夏”が重ね合わされ、しかし今、主人公の胸に輝くのは、“新たなロゴ・デザインのエンドレス・サマー”という文字かもしれない。

  5. I AM YOUR SINGER

    2008年に日産スタジアムで行われた『真夏の大感謝祭』を前にリリースされ、これまでの感謝、そして、暫しの別れが歌われる。「無期限活動休止」が発表されたこともあり、特別な想いで受取ったファンが多かったが、作品自体は意表を突いた、打ち込み主体の音。ステージではメンバーが、当て振りのパフォーマンスをした。なお曲のタイトルは、ポール・マッカートニー&ウィングスの作品からインスパイアされたものかもしれない。

  6. はっぴいえんど

    男というのは本心を言葉にしない。一番大切にすべき、人生の伴侶に対してもそうなのだ。そんな時、こうした歌があると、代弁してくれているようで助かる。しかも大仰なものじゃないし、余計に助かる。人生という物語を読み進み、開いた本の重心が右に傾いた頃、最後のページで願うのは、もちろん…。カタカナの“ハッピーエンド”より平仮名のほうが、幸せがより身近にあるように感じるのは僕だけだろうか。

  7. 北鎌倉の思い出

    古(いにしえ)にも現代にも、同時に存在し得るかのような原 由子の歌声は、曲を作る桑田にとって、作家として、別の引き出しを開けることが出来る刺激的な存在のようだ。この曲など、まさにそうであり、映画『ビブリア古書堂の事件手帖』主題歌ということも加わって、時間の“重層性”に、より磨きがかかっている。ちなみに北鎌倉といえば、桑田が通った高校の所在地でもある。

  8. FRIENDS

    「地球ゴージャス」の舞台「クラウディア」のために書かれたという経緯は重要だ。曲構成に舞台演出的テイストが感じられ、それが通常のロック~ポップスとは異なる聴き心地を実現させているのだ。主人公にピンスポットがあたり、独白が続くような前半と、ステージにみんなが並び、ダンス・シーンを思わす後半…。エンディングで再び冒頭に戻るが、明確な二部構成であり、他のサザンの楽曲には見られないものとなっている。

  9. ピースとハイライト

    日本を代表したタバコの銘柄が並ぶタイトルだが、聴けば内容は、平和へのしなやかな提言に満ちている。声高になりそうなテーマだが、あくまで関節の柔らかさを保つのが、サザンの偉大さなのである。学校の頃、日本史の教科書が、3学期になると現代史を残して時間切れ。“一番大事なのはそこなのに”と指摘する歌詞には、“いいね!”をたくさん送りたい。

  10. アロエ

    香港の活劇映画の主題歌みたいな派手なイントロに乗せて、腰を早く“動かしたもん勝ち”の作品であり、聞えてくる歌詞というか台詞というか、それは時に不条理の美学に満ちている。若き日の彼らなら、おちゃらけて終わってたかもしれないタイプの曲だが、お遊び感覚というオブラートに包みつつ、ここでは格言クラスのメッセージも含んでいる。音楽のマッサージにほぐされてたら、意外やメッセージのほうが心に効いてた…、という楽曲。

  11. 神の島遥か国

    これぞサザン流チャンプルー・ミュージックの極地だろう。ニューオーリンズR&B的なチャーミングなリズムに、沖縄のカチャーシー(アップテンポの民謡)的なパートも挟まれ、それでいてサビは、心地良い景色が見えてくるメロディアスなものとなっている。近くても“遥か国”である沖縄。そこは“神の島”であるという、地元の人達への敬意も忘れない。

  12. 栄光の男

    この歌に描かれた主人公は、人生も後半戦。かつて未来と仰ぎ見た場所が、いざ辿り着いてみると、なんら日常と変わりない風景であることを噛みしめる。久しぶりにサザンのメンバーが集まり、音を響かせ、そこに芽生えたグルーヴが、この曲の推進力となり、完成へと至ったそうだ。なので演奏面においては、発表当時のサザンの“らしさ”が、素直に詰まった一曲と言えるだろう。

  13. BOHBO No.5

    ある年代限定かもしれないが、かつてボボ・ブラジルという強いレスラーがいて、でもこの名前、九州地方では名乗ることが憚れるのだと知った。こうした言葉の秘匿性を、時に桑田は作詞に活かしもする。展開が派手で、飽きさせない作品である。どんどんビルドアップし、観客と一体になるための仕掛けが次々繰り出されていく。しかし全体がとっ散らかることもなく、最後は集団的無意識に訴え、「いい曲だなぁ」という感想へ帰結する。

  14. 『稲村ジェーン』以来、23年ぶりの映画主題歌となった作品だが、映画主題歌には、敢えて自らの音楽性をぶつけつつシナジーを探るやり方と、映画そのものを咀嚼し、正面から背負うやり方とがある。これは後者だろう。サザンの作品だが、オーケストラの伴奏による“桑田佳祐 with Strings”な印象でもある。丁寧に言葉を選んだ歌詞を虚飾を排したまっすぐな表現で歌いきる。自分は“先に旅立った人々に生かされている”(『葡萄白書』ライナーより)という彼の実感が、真摯に響いてくる作品である。 

  15. 闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて

    “ものたち”を“戦士たち”と表記しただけのシビアさが漂っている。映画『空飛ぶタイヤ』主題歌だけに、サスペンス・タッチといえる雰囲気もあり、2番のあとの“♪大量の株が…”以降は、さらに現実社会の深部へと紛れ込む。組織のなかで多くの矛盾に苛まれながらも前を向く者達へのエールなので、アウトロの最後、音がメジャーで終わり、光が見えるまでビター・テイストだ。でもこの場合、生半可な励ましより、これに尽きるのだろう。とはいえ“♪寄っといでー”のサビを、植木等的な名調子として鼻歌しながら楽しむことも可能である。

  16. 壮年JUMP

    洒脱な楽曲タイトルに身を包んだ“アイドル賛歌”である。昨今、“アイドル”というと若い女性が目指す職業の名称、でもあるが、ここではもっと精神的な意味で、心の支えとなる憧れの存在に対して歌いかけている。“♪シュワッ シュワッ”とメンバーのコーラスも絡み、サザンというバンドの柔らかさが伝わる。でもこの歌は、ただの“賛歌”に留まらない。夢にも終わりがあることも示唆しており、“成長”、“卒業”といったことも、もうひとつのテーマとして、伝えようとしているのかもしれない。

  17. 弥蜜塌菜のしらべ <完全生産限定盤 Bonus Track>

    昨年の夏、38年ぶりにサザンのメンバーが「三ツ矢サイダー」のテレビCMに出演した際、海辺で彼らが聞かせてくれたのがこの曲だったが、誰ともなく歌い始め、やがてそれがハーモニーに、という、自然な佇まいが心地良かった。タイトルの“やみつだーさい”は、商品名の凝ったアナグラムであり、“サイダーなんてもう飲まない”と歌う、言葉を裏返した愛情表現も話題となった。